人生って不思議なものだ。
丁度いい時に色んな事が片が付く。片をつけなきゃいけなくなる。嬉しいような淋しいようなそんな状況が自分が狙ってなくても自分で作り出さなくてもやってくるとは思って無かった。不思議なもんだ、本当に。






アパートの更新日は5月。勿論それより前に返答しなきゃいけないけど。母方から言われた片付けが終わるのが多分明日。有給取ってまで?と思ったけど取って片付けておこうと思う。苦手だ。決まってる事を先延ばしは。なので文句を言われながら有給を取った。そりゃ文句言われても仕方ないんだけど。あれだけ入院だの検査だので有給使ったし。……明日で片付く。嬉しい事だ。もう足かせがなくなる。もう胸の奥に少しほろ苦い思いを持つ必要も無い。自分が知らない処で知らない間に色んな準備が整って。


薪もある。今マッチはある。無いのは着火剤だけ。
何か着火剤が無いかなと考えて。
……結局3つが揃った事って2回しかないんだなあと思ったりした。


何より先に確保した薪は今でも使用可能で。これが無いと始まらないものだから大事にしている。着火剤が山ほどあった時にはマッチが無かったりした。マッチだろうと思って手を出したら違ったりして。そしてマッチがある今着火剤が無い不思議。なので無理矢理着火剤を作ろうとしてみたりして。そして思う。別に無理矢理でなくてもそのうち揃うよと。揃った時でいいじゃないかと。そして思った。そのうちって何時?って。だから色んな事を片付けなきゃと思って。そうしていると知らない間に色んな事が回り始めた。本当に不思議。


例えで言うなら

薪=丈夫なロープと太い枝
着火剤=薪にたどり着くまでの意思
マッチ=火をつけるもの



……別に死のうとしている訳じゃないけど首を吊るには確実に切れないロープと折れない枝が無きゃ出来ない訳で。そしてそれを実行して途中でやっぱ辞めとこうと思わない意思が必要で。それらに足して、首を吊ろう、と思う事が必要。


そう考えてて結局何でも3つの段階があるんだなと子供の頃に思った事に辿り着く。あの頃あたしは若かった。そして多分今より賢かった。(苦笑)



今?今は……馬鹿だよね、ただの。馬鹿だ。うん。



だから馬鹿なのは仕方ないけど。馬鹿を認めて生きていくか馬鹿にされないように生きていくか、生きるのを辞めるかを決めていかなきゃ。



……一度「鬱陶しいよ」と言われてから鬱陶しいと思われたくないとなるべく何も言わないように気をつけてきた。嫌われたくないと。馬鹿じゃないんだから解ってるでしょと思いながら言わないように気をつけてきた。何となく勘で解っていても言うまで突っ込まない方がいいと。薄々気づいても突っ込んで何が出来るの?と。嫌われるだけじゃないの。鬱陶しいだけじゃんね。笑っちゃうよね。だから押し込めて押し込めてきた。何時だって言わぬが花、余計な事は言わない方がいい、伝えない方がいい事だってある。

そう、世の中知らない方が幸せな事は沢山。

そう思ってたけど今回はちょっと違ったりする。単純に知らない間に知らない処で準備が整ってきたから。え?っていう位に。だから今回はちょっと違う。色んな意味で状況がエピローグ。知らない間にだ。計算してもないし計画通りな訳でもない。何の因果か、ってやつで状況が整った。物理的に整った。精神的にどうこうよりオシリに火、着くよね。精神的にどうこうだけならこんな風に突き詰める事も無かった。物理的な限界は本当に厳しいもんだな。



……お金が無いとか、将来が不安なんですとか、そういう問題じゃなくって。迫った現実をどうにかしなきゃっていうのは本当に厳しい。


ぶっちゃけ言うと


給料 11万9875円
家賃(駐車場込み)5万円


この段階で結構詰んでる。カイジならザワザワどころじゃないし笹食ってる場合じゃねえの段階。解らない人は幸せな人だと思う。幸せな人から考えれば

残り7万弱で

光熱費、電話代、車の諸経費払えばいいんじゃね?なんだろう。
実際はそうはいかない。
光熱費、電話代、車の諸経費、税金、保険、食費。


そして何より大事なのが貯蓄、だ。


頼れる場所が無く頼れる人が居ない人間は死ぬ時も自分でどうにかしておかなきゃいけない。死に掛けた場合でもどうにかしておかなきゃいけない。そう考えたら貯蓄が全く出来ない状況下ってだけで詰んでる。終わってる。終了フラグ。


だからってPCを消して眠る気にはならない。



だから答えを貰って、でも誰かとならば人生は違うと思いながらも独りでも私は生きられるように道を選んでいかなきゃね。だってさあwwwシンジャウよりいいでしょ?www




……思いを綴るという行為は体力が必要だと思うのです。


28歳の頃、愚かな思いを抱きました。

29歳でド発狂するハメになりました。それはええねん、オノレのせいやしな。

その後眠れない日々をすごしていた頃に一人の人と知り合いました。

もともとはそれより以前に知り合ってはいたものの挨拶程度でしかなく、繋がりも無かった人だったけれど何故かタイミングが合って話すようになった。画面越しにね。ボクは薬片手に酒を煽る毎日だったし何故毎夜ボクに話しかけてくるのか不思議だったけれど段々とその関係に慣れていった。そのうちに誰かを紹介された訳だ。

知り合いは誰かと住む住まないでモメてた。

理由がよく解らない事で駄々こねてる印象だった。

「なら辞めれば?」と何度も言ったのを思い出す。


そののち、知り合いは結局誰かと住む為に引っ越した。


上手くいってる風に聞いていたから良かったなと思っていて。

遊びにこいこいと何度も言われていてタイミングもあった何年か前、出かけることにしたと連絡をいれた。二つ返事でおいでおいでと言われた。何も知らなかった。何にも。




子供が出来てたとかね。おろすおろさないでモメてたとかね。




行くと決まってチケットとった後に日記で知った。

驚いて何度も確かめた。「誰かはボクが行くのを知ってるのか、了承してるのか」「これからどうするつもりなのか」「簡単にこいこい言うけど行っていい状況ではないだろう」

「知ってるし、来ていいって言ってる」「おろす」「来ないなら自殺する」

…まぁどれも嘘だったけど。


行って誰かと初めて会った時に弱弱しい状態にビックリした。「煙草吸っていいから」と言われて普通に吸った。誰かが喘息持ちだと知ったのは随分後だった。ずっと丁寧語で話された。ボクが名刺を渡し、誰かもくれた。初めて名前を知った。子犬のような人だった。世代が違う若者らしいところも多々あったけれど純朴で優しい印象だった。ただ、とても弱そうだった。その後、弱そうだった理由を知ることになるけれど。

晩御飯をもう一人の知り合いを交えて食べる時に誰か(彼)が知り合い(彼女)にお金を渡していたのを鮮明に覚えている。「少し多めに持っていかないと・・・」と弱弱しく言っていたのも。ボクからするとビックリだったからだ。お金の管理は一回り下の彼がしてるのか?という驚愕があったから。一体どうなってるんだろう、と思った。出かけた先でもおろすおろすと連呼しながら煙草を吸ってお酒を煽る彼女に何度も注意はしたけれど「多少の煙草ならストレスたまるよりいいから」「酔わないから」「経験者なんだから解ってるんだから大丈夫だって」と言われて押し黙るしかなかった。納得がいかなかった。

単純にボクは妊娠して煙草もお酒も辞めた経験があったから。

生まれてはこなかったけれど。

帰る時間になって戻ったら彼は酔っ払っていた。一人で部屋にいた。「はいどうぞ」とテーブルにがしゃんとグラスを置かれて水を注がれた。大丈夫?と尋ねたら「大丈夫です」「平気です」「全然平気です」と繰り返し言った。・・・大丈夫でも平気でもないのは見てとれた。それ以来簡単に大丈夫?と人に尋ねるのをボクはあまりしなくなった。大丈夫?と尋ねられたら人は大丈夫だと答えるんだなと思った。

彼が寝て、その状況下で眠れる訳もなく当時毎夜飲んでいたよりも大目に薬を飲んだのを覚えている。

朝になったら彼は又大人しくて丁寧語に戻っていた。

前夜の酔っ払った憤怒の表情は消えていた。

又、哀しい顔だった。


お昼に別で知り合った女性二人と会う事になっていて彼女も一緒に来たけれど体調が悪く引き上げた。女性二人とカラオケしたりご飯食べたりしつつ一人に頼み込んだ。「悪いねんけど泊めてくれなくてもええから泊まったことにして」と。もう一度あそこへ戻るのは御免だと思った。その時にはなんとなく、薄々には解ってきていた。

彼はボクが行くことは知ってはいても

ボクが泊まる事は知らされてなかったんだなと。

彼女の独断だったんだなと。

彼は彼女に逆らわなかったから。

幸にも「とまってたことにして、じゃなくとまればいいやん」と言って貰えたので荷物だけを取りに戻った。駅から夜道を歩いていたら彼が暗い道を歩いてくるのが見えた。「覚えてるからよかったのに」というと「彼女がいってこいって」と言っていた。言葉少なくアパートに戻って。彼女が物凄く怒っている空気が漂っている中、ありがとうと伝えて彼女を抱きしめて荷物を抱えて部屋を出た。おくってくれなくてもいいよと言ったけど彼がついてきてくれた。

夜道歩きながら意を決して話をしたのを覚えている。

どうするつもりなのか、どういう考えなのか、どうしたいのか。

「子供は諦めたほうがいい」とボクは思ったまんまを伝えた。

幸せそうじゃなかった、彼女も、彼も。だから思った通りを伝えた。

彼は「無理だと解ってる」と弱弱しく笑って言っていた。

「俺は彼女がいてくれたらいいんだ」とも。

駅で握手をした。

優しい手をしていた。

とても弱い手をしていた。





握手をして、彼らが住む街にさよならを告げて

ボクはボクで自分が住んでいた場所に戻って。



住む場所だという感覚もないままに戻って。

1ヶ月しない間に悲鳴のような連絡にまみれた。

彼に殴られた。彼がいい加減過ぎる。彼が親に言わない。嘘ばかりつく。嘘つきは嫌いだ。言う事に納得は出来た。単純に彼とも彼女とも違う命が彼女のおなかには居た。おなかにいる命に対する冒涜だと思った。

それから少しして彼女は彼と暮らした街を出て生まれた街に戻った。

彼女はずっと「帰る場所はない」と言っていた。だけど戻る場所はあったわけだ。

帰る場所はないからと何度も言うから、うちにくればいいよと言っていた。うちにこなくても、来るなら引っ越すよと。一緒に暮らせばいいよと。家賃と光熱費と、飢えない程度に食べるだけならボクでも稼げていたから。何故かは解らない。

多分、違和感はあったけどボクを「友達だ」と言ってくれたからだと思う。




戻った街でどうやって暮らしているのかすら知らなかった。ただ綿密にやり取りしなきゃと思っていた。仕事が終わって当時の寝床に戻ってメッセンジャーを立ち上げると必ず彼女がいた。少し話すと彼女はご飯を食べに出かけたりしていた。何処からそのお金が出たのかはその頃聞いた。「お金で済ませるつもりなんだよね」と言った。幾ら貰ったのか知らないし知ろうともしなかった。ただ、お金を積まれたと、それで荷物まとめたとだけ、それだけ聞いていた。戻った街で一人で暮らしを再開できる程度貰ったんだろうと、それから先は貯金があるものだと思っていた。



何度も戻った街に遊びにおいでと言われた。そのうち冗談なのか本気なのかわからないけれど「来なきゃ何も出来ない」「来なきゃご飯も食べない」になった。どうにか都合をつけて出かけた。出かけて、幻でも冗談でもなく、膨らんだおなかを見て命がここにあるんだと思った。夜ご飯を食べに出かけた先で変わらずお酒を飲んで煙草を吸ってたけれど何も言えなかった。何も言えなかった。友達だと言ってくれた人を失うのも怖い気がしたし、何より下手に忠告しても怒るだけだと思った。怒らせる位なら緩やかに量を減らせるように、今だけでもすればいいと思った。



彼女の家に家具らしい家具もなく、調理器具もなく、どうやって生活してるのかなと思いながら二人で部屋で眠った。起きてボーっとしながら何でもいいよと、買い物付き合うよと。ボクが持てば済むんだしお鍋とか買いに行こうよと。だけど彼女は「パチ行こうー」と言った。当時ボクもかなりの度合いでホールに通ってた。何も考えなくていいから、あの騒音と光は思考力も感覚もマヒさせてくれるから通っていた。彼女もそれは知ってたし、彼女が前は頻繁にホールに通っていたのも知ってた。「だけどあたしお金ないよ、持ってきてない」と言ったら「はいこれ」と3万渡された。そのままタクシーでホール。タクシーでパチンコってどんな生活だって話だけど。運良く勝ってお金は返せた。だけどビックリした。帰りにご飯を食べに出かけた店で薄っすらと尋ねた。毎日通ってるのか、ご飯本当にどうしてるのか。毎日コンビニか外食、ホールへはボクが仕事にでかける頃に出かけて毎日だと。幾ら貰ったんだ、と尋ねた。金額を聞いて驚いた。



夜戻った部屋で彼女が「メッセンジャーよりいいものがある」と彼女がやってたゲームのIDを作ってくれた。「どの職がいい?」と尋ねられ、やる気もなく、ただ彼女と連絡をとる手段と考えてとりあえず選らんだ。やる気はさらさらなかった。



最後の日のお昼にご飯を食べに出かけた店で彼女の母親と遭遇した。彼女も彼女の母親もお互いを存在してないように振舞ってた。ボクも親とは疎遠だからそれに関しては何も言わなかった。駅で別れる時に言った。




「無駄遣いしないように」「栄養とるように」「お酒とタバコは控えめに」



「早いうちに又きてね」「絶対来るんだよ」




知らない間にボクは随分彼女に依存するようになっていた。




一度彼女の故郷へ出向き、ボクは寝床へ戻り、使えそうなものをかき集めて荷造りして送ったりしたけれど「使わないから、こんなことしてくれるなら来てくれたほうが余程嬉しい」と何度も言われたりしながら過ごして。彼女がしていたゲームにログインするようになった。



ログインするようになってすぐに彼女は生活の無理が出て流産の危機になり、入院した。何もすることがなくなったボクは彼女がログインしていないのを知りながらゲームにログインし、誰と会話することもなく、ただ徒歩でゲームの中を歩き回るようになった。誰ともつながりも持たないで、ゲーム内のNPCと毎日話して一人で何処かの街で座って音楽を聞いて、頼まれごと(クエストというやつですね)を毎日やって。クエストを同時進行することもなく、ひとつ頼まれたらそれが終わるまで必死でやってた。ただ何も考えなくていいから。そうしながら彼女とはメールでやり取りしていた。


彼女が生まれ故郷へ戻った直後あたりに、一度だけ彼とチャットしたことがある。

文字のひとつひとつに信用されてないというのが見てとれてしんどかったけど、話しておかないとと何故か思ってた。違和感があったからもある。「双方の意見を聞かないままどうこうは言えない」という自分のスタンスを守りたかったのもあった。ただ彼は「じゃあ俺にどうしろっていうんですか?」「何言っても無駄でしょ」という言葉を返したのも覚えている。当時はこの人はこういうことを言う段階にあると思っているんだろうかという半ばあきれに近い感情で見ていた。どういう紹介をされたのかよく知らなかったのもあった。



ボクはボクで薬の弊害に悩み始めた頃だった。毎日飲む薬の量はおかしい程に増えていた。吃音が酷くなってどもるようになり、記憶力が恐ろしい程減退しているのを感じていた。それと同時に上手く言葉で表現できないことをモノを壊す事で折り合いをつけていた時期だった。本棚、車のサイドガラス、食器、それで駄目になって自分の体を殴り続けていた。限度が無かった。痛みも感じないから感じるまで素手で本棚を殴って、窓を割って、殴って、今考えれば馬鹿馬鹿しいけど。当時は本当に狂ってたんだなと思う。


それをしなくて済む時間がオンラインゲームにログインしてただものを集めたり、届けたり、そんな時間だったりした。


彼女が退院し、二人でずっとゲームでいた。お互いしかいなかった。いつも一緒だった。何処へいくのも、レベルを上げるのも、何をするのも一緒。お互いが眠る頃に眠る。そんな夜を毎夜過ごしていた。二人で飲みながらゲーム内で会話をして、お互い歳に似合わぬかわいらしいキャラクターを着飾らせ、クエストをこなし、冒険をした。馬鹿だねと先にゲームをしていた彼女から言われながらもボクは単純にゲームを楽しみ始めていた。


その頃、新しいゲーム内のMAPに移った。行ったことがない場所、楽しかった。何度死んでもやり直しがきく。少しのペナルティだけ。なんとも思わずにただ、彼女の後ろをついて回ってた。ゲームをやっていたら彼女は飲みに出かけなかった。産むと決めたなら少しでも体に悪いことは辞めて欲しかった。でも今でも解らない。本当にそれだけだったのか、ボクが淋しいからだったのか。今でも解らない。ただ、当時はボクがログインしていれば彼女は夜出かけない、だからログインしようと思っていた。


新しいMAPに移動して何日かして。彼女のPCか回線が調子が悪く、彼女がログアウトになった。一人残されて、本当に珍しく、彼女以外のキャラクターにボクから話しかけた。見たことがないレベルで、ぼーっと突っ立っていた。返事してくれると思ってもいなかったけどなんとなく。ノンキに。男のキャラクターで白い帽子をかぶって、赤いムチを持っていた。ボクもムチを持っていて「それ持ってる!」と。単純に本当に単純に話しかけた。



無視されるんだろうなと思っていたら何故か相手にしてくれた。二人で殴りあうまねをしていた。彼女が戻ってきた。「何してるの」と言われて「この人もムチ持ってる!」と返事した。其れ位単純に、何となくだった。




「知り合いだし」と言われて理解出来なかった。

古い知り合いなのか、と思って「なら丁度いいやん、言えば?」と言った。

白い帽子の人の知り合いが直後にやってきた。沢山の女の子キャラクターが。




その中に彼が、彼女のおなかにいる子供の父親がいるのを知ったのはそれから二日後だった。



ゲームの中で普通に話していた。ボクは彼女以外と話を沢山することがなかったから何となく嬉しくてダラダラ喋って。みんなボクのトンチキな発言を面白がって話してくれた。飲んだくれで薬漬けだったボクは何が起こっているのかも解っていなかった。彼女は翌日なかなかログインしなかった。飲みに出かけていた。一人でログインをして遊んだ。前日話した面子と遊んだわけではないけど何となく楽しかった。夜遅くログインした彼女は泥酔していた。チャットの文字も暗号のようでとりあえず寝なよと言った。で、その次の日に知った訳だ。どのキャラクターの内臓が誰なのか、を。それからボクは出会った場所へ行くのが怖くなったし、彼らの誰かが居ても素通りした。挨拶すらしなかった。それが最善の策だと思った。

だけど彼女は違った。普通に話しかけ、彼が仲間にならないかと言う言葉を言った時に「あの子も一緒なら」と言った。その事を告げられて随分拒否して渋って。だけど結局彼女が言うままに仲間に加わってうそをついた。

だからインターネット上で嘘をついた事は実際は二度あるわけだ。

ボクは28歳だと嘘をついた。


仲間内でみんなよくしてくれた。時には全て頭からすっぽ抜けて楽しんで会話をして冒険をした。だけど結局いつも頭の片隅に残ってはいた。彼は知らない。

彼は知らない。

着飾ったキャラクターの内臓が誰なのか。

ボクが誰なのか、彼女が誰なのかも、彼は知らない。

時間が経つにつれて重荷になった。

言うべきじゃないのか、もしくは言わないまま離れるべきじゃないかと何度も彼女と話をした。だけどその度に上手く上手くかわされて結局ずるずると嘘をついたままの関係を続けた。どうすればいいのかもよく解らなかった。物凄く、流されていた。

時々彼は本音を零した。どう返事をしたらいいのか解らなかった。

そして時々、ボクも本音を零した。

彼は多分うすうすは知っていたと思う。

ボクが誰なのか、は。


終幕は突如としてやってきて、ボクは一度あって握手をして別れる間際に聞いた電話番号へ電話をかけた。彼女にはかけると言った。やめときなよとは言われたけど、何となく、納得できないまま終わるのはイヤだと思った。


彼は普通にボクの名前を呼んだ。久しぶりだねえと言った。

ボクも普通に彼の名前を呼んだ。久しぶりだねえと言った。

とげとげしい会話をしながらお互いたぶん驚いても居なかった。

お互いが、相手が誰なのか知っていて相手が気がついていることを知ってた。


ただ彼は彼女が、自分が仲間に誘ったキャラクターの中身だったのは知らなかった。


ボクが彼に告げた。



言葉にするのは狂信的なエネルギーが必要か、

もしくは気が狂ってる時じゃない限り

ほんとうのことばなんて文字に残せないものなんだなと思うんです。



彼は知らなかった。

もう一人の、可愛いキャラクターの中身が誰なのか、を。


彼女が出産の間、彼や、鞭の人には良くしてもらった。

話してもらって、孤独にならないように。



ボクが彼に内臓が誰なのかを告げると多少ショックが入り混じった声で「ああそうなんだ。そっかぁ。そっかぁ。やっぱりそっかぁ。そっかぁ。」そればかりを繰り返してたのを覚えてる。忘れられない。「そっかぁ」うん、そうなんだ。そうだったんだ。

そして集まりから抜けて。


ボクは孤独になった。

ゲームの中では彼女から怒られて、現実生活は歯車が狂ったまま仕事してないと生きてる価値がないって勢いで仕事だけして。孤独になって、そして孤独に慣れていった。


そのうち彼女の怒りは溶けて、溶けたというか、しばしば彼女に言われながらも彼女はボクを許して一緒に行動するようになって。元に戻ったというか。そんな風になって。


そして彼女は自分が誰なのかを隠さなくなった。

過去、彼と彼女があのベンチで座って語り合った頃を知ってる人間が内臓なのを知っても隠さなくなった。「元々は○○っていうキャラでやってたんです」というようになった。ボクは黙って見ていた。それを。ただ黙って見ながら、注意もせずに、責めもせずに。時々苦言を言うので精一杯だった。


彼の気持ちを時々想像して罪悪感まみれで。








んでまぁ、ある日。

普段なら彼女がボクに話しかけてくるラインではない別のラインで話しかけてきたわけだ。

泥酔して。泥酔して話しかけてきて、何で別ラインでなんだ?と言いながら「ああ、酔っ払ってるからなんだろうなぁ」と思ってた。実際は違った。





彼のキャラクターを消したから別ラインで話しかけてきたんだった。





彼はゲームでは古参であって、キャラクターが沢山いた。

彼女はその中でも思いいれのあるキャラを知っていて、彼が昔と、彼女を愛した頃と、彼女のおなかに子供が宿る前と、彼女と暮らす前と、IDもパスワードも変わってないのを確認して。そして。



キャラクターをデリートした。




「いい加減にせんといけんのよ。親が可哀想じゃけん。あたしに積んだお金だって親が出した金じゃけん。何で今でもゲームしてるんか解らんし。大事なキャラは解ってるんよ。キャラデリしてやった。消して別のキャラ作ってやった。名前はもう一回作れないように別で作ったけん。これで懲りたらええんよ」




忘れない。




想像力が足りない人を友達だと思ったんだなと思った。怒りは想像ができる。でも犯罪行為だし、それ以上に若い、若い人が随分年上の人を愛して愛して、苦悩して、それでも愛して。出来る限りをしながら、不安を抱えて。不安まみれで。そういうことが一切想像出来なかったんだなと。想像する価値も無かったのかなと。



自分が友達だと思った相手を信じられなくなった。

そう思った自分を嫌いだと思ったし、許せなくなった。