誰かの地雷を踏んだ夜は安易な自分が嫌になる。
昔から安易でノンキで傍若無人で、空気が読めない。
母親がアレだとお前もコレかとか、父親がアレだとお前もコレかとか
親がどうだろうとテメーの責任だろッザケンジャネエヨとか。




空気が読めないのが上手く働いた事もあった。
でもそれ以上に読めない事が悪く働いてきた。
ボクがアカンのはそれが頭からすっぽ抜ける事だ。
そしてすっぽ抜けた時に、それらがやってくる。



器用で不器用で何でも軽くこなせるのに下手な人だった。
苦手だと思ったから半年近く口をきかなかった。
その人しかいなければ氷だけのグラスで我慢して、
その人が前に立つと隣と話をしたりした。

景気が悪く無かったあの頃、あの店のカウンターは何時も満席だった。

親元を出たくて、親から離れたくて仕方なかった。
一時期親元を離れていた分、余計にそれが酷かった。
大好きだと思った人たちが何人も亡くなった後に
馬鹿馬鹿しい青臭い事をアーダコーダ言う親にも何度目かの愛想が尽きていて。

半年近く口をきかなかった相手にどうにか注文だけは出来るようになって
同い年で性格はキレやすく、口は悪く、が被った店での知り合いと3人で遊んで。

その日に家を出た。

その人は田舎の一軒家を借りていて、部屋があるからと言った。
今すぐに、出ていきたくて行方不明になりたかった時、助けに船だった。


若かったから、傷がまだ治りきって無かったから、
言い訳は沢山あるけど
同居、から、同棲、になるにはそれ程時間はかからなかった。


優しい人だった。
不器用で、不恰好に真面目で。
ノンキモノで、愚かで、ステアするバースプーンが綺麗に回る人だった。

煙そうな目をして咥え煙草でダスターが肩にかかって
タマネギと葱とキャベツの切り方に五月蝿くて
カレーとナポリタンと、イギリス式ミルクティー
コーヒーに目を輝かせて喜んでくれた人だった。


何時も手持ち無沙汰に指でカウンターを叩いていた。
賢いけれど、上手くそれを使えなくて、何時もそれを感じて焦って、
焦って焦って、失敗して。
ちょっと淋しそうに笑う人だった。

どれだけ冷たい言葉を投げても
どれだけ冷たい視線を向けても
懲りない人だった。


沢山の思い出を、沢山の記憶を積み上げて、
沢山の楽しい事を、沢山の幸せな時間を積み上げていたはずなのに。


2人で何処かへ出かけた記憶は無くて
何時も誰かが居た。
その人は本当に不器用だけど生真面目で
みんなに愛されていた。
何時も何処でも誰かが加わって、
「俺の友達はあなたの友達だから」
それがその人の口癖だった。

あの春、まだ寒い日に、美味しいコーヒーを飲もうと緊張する店で飲んだ。
あの夏、暑い日に、不機嫌なボクを連れ出して夕日が落ちる海で泳いだ。
あの秋、夕暮れが寒い頃、心配しなくていいと言ってくれた。
あの冬、部屋でおなかもすかないと爆笑してた時、料理を作ってくれた。


贅沢過ぎたのはボクで、
優しすぎたのはその人で。


夢をのせて走る車道 明日への旅
通りすぎる波の色 思い出の日々
恋心何故に切なく 胸の奥に迫る
振り返る度に野薔薇のような baby love


湿気が多くて暑くて、夏生まれなのに夏は苦手。


その人がどんな事でも
「気にしなくていいんじゃない」
と笑ってくれたのを思い出す。


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ただ、その人を思い出して、浮かぶ歌を苦いなと噛み締める事は無い。
そこら辺が違うんだなと思う。全然足りない。全然違う。全然遠い。
…苦いなと思う歌で思い出す人は限られていて。


そして変化する。


地雷だったなって事が地雷じゃなくなって
減ったなあと思ったり思わなかったり。


ただ確かなのは減った分、補充されたんだなって事。